Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

労働時間に関する異説

労働法で,「労働時間」について学んだ。労働基準法では,労働時間規制に違反すると,会社は罰則が適用されるなどシビアなものだが,いったいどこまでが労働基準法にいう「労働時間」なのか,というのがしばしば問題になる。


ここでは,マジメにこの問題を考えるのではなく,前の前の会社(最初に働き出した会社,仮にX社とする)で,類似の問題が若手社員の関心事だったため,これを振り返ることにする。


その会社では,半月に一度,「タイムレポート」という作業時間報告書を提出し,それに基づいて勤怠管理,残業時間の管理が行われる。しかし,もっとも重要な役割だったのは,管理者にとって,プロジェクト単位の原価計算をするためのデータになることだった。


この数字には種々の思惑があった。若手社員は,働いた分はちゃんとつけて残業代を請求したいが,同じ仕事をやるのにやたらと時間をかけたという証拠を残すことは,自分がデキナイ人だという証明にもなるから,控えよう,という思惑も働く。マネジャーは,予算管理の立場上,好き放題にやられては困る一方,16時間働いた人に対して,おおっぴらに「お前は8時間/日しか認めないぞ」とも言えない。


労働法の判例では,労働時間の基準は,「指揮命令下にある時間」というもので判断される(指揮命令下説)。だから,ビル管理の仕事で,仮眠時間も労働時間と認められたケースがある。


X社では3つの説があった(現在の私による勝手な分類)。

その1。とにかく働いた時間説。
判例のいう,指揮命令下説とほとんど同じ。しかし,これを認めると,多くの社員が残業100時間を超えたりしてプロジェクトは赤字。仕事をゆっくりやるほど実入りが良くなるから,モラルハザードも起こす。


その2。生産的な稼働時間説。
「生産的な仕事をした時間をつけて下さい」というもの。これを言われると,若手としてはたとえ16時間働いても,「自分は未熟だし,無駄が多かったので・・」と感じて(なかば無理やり)控えめに(10時間ぐらい)にさせられる。


その3。8時間上限説。
厳しいプロジェクトでよくある話。何時間働いても,労働時間は8時間。予算が苦しいからそうなってしまう。こういう状況下で,月に400時間近く働いて,給料を時給換算するとファーストフードのバイト並みに陥る。


ちなみに。この話はかれこれ10年も前の話のなので,現在も同様の状況ではないと思います。むしろ今は違う,という噂を聞いております。