Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

法曹の能力測定方法

とてもあたりまえのことを難しく考えてみた(図が小さくてわかりにくいが,大きく作ったのになぜか小さく表示されてしまう)。
人の能力,資質を評価することは難しい。特に,われわれが目指している司法試験のように,とても重要な資質・知識を見極めるのは難しい。


というより,現実には「法曹にふさわしい能力」を正確に測定する究極の手段はないと思う。計測機器の例を持ち出すまでもなく,測定器の精度を上げればあげるほど,コストがかかる。しかも,測定器の示すアウトプットは,あくまで測定値である。そこで,「限られた時間的金銭的コストの中で,できるだけ法曹としてふさわしい能力が備わっているかを判断する」方法として,現行司法試験が用意されている。


しかし,現実には現行司法試験が本当に「法曹にふさわしいか」ということを判断する手段として最適なものではない,ということが疑われてきた。ロースクールの先生や,司法研修所の教官,ベテランの弁護士らが,「司法試験に向けた勉強は無駄が多い。合格した人も期待したレベルではない」とおっしゃっているのを,この1年間で何十回も聴いた。


このことをモデル化すると,こういうことなんだと思う(図参照)。
法曹として望ましい能力を表す軸をvとする。しかし,現実の司法試験の評価軸はuとする。司法試験受験生は,u軸に沿って,できるだけそのスカラー量を大きく伸ばそうとする。受験生A君の実力をベクトルaとすると,u軸の上で測定される実力は|a|になるから,ベクトルの長さがそのまま評価される(左図)。


しかし,合格したA君が,研修所や,実務の世界ではv軸で評価されるので,v軸とu軸の乖離をθとすると,A君の実力の測定値は|a|cosθとなる。θが限りなくゼロに近ければ何の問題もないだろうが,現状はかなり大きいのだろう(左図)。だから,測定値は小さくなり,「思ったより実力がない」と思われてしまう。


そもそもv軸がどこにあるのかも見えにくい。しかも,仮にそれが正しく見えたとしても,そちらに向かってまっすぐ進んで(B君の場合),bという力を身につけたとしても,入り口の司法試験で評価される測定値は|b|cosθとなって,スカラー量ではA君と負けていなくても,試験では負ける(右図)。


どうでもいいことをわざわざ図を書いてまで考えてしまった。新司法試験のw軸はまだ見えない。だから,多くの人はまだu軸に沿って進んでいるんだと思う。ロースクールが導いているのはu軸でないことは確かだが,v軸なのか,まだ見ぬw軸かもわからない。だから,学生たちのベクトルは日々揺れている。


評価の軸を定めるということは非常に重要で,人の行動のインセンティブにも直結するが,あるべき姿へ向かわない場合もある。単純な例だと,営業マンにとって売上を評価軸とすると,無茶な受注を集めたりする弊害が生まれるし,予算達成率を評価軸とすると,低めの予算をつけたくなる。だから,今のように,新司法試験の評価軸が見えない状態だと,邪念も出てこないからいいのかもしれない。