Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

専門用語

「専門用語」という言葉。新しい分野,特に学問・研究における新しい分野に足を踏み入れようとすると,必ず「専門用語」の壁に当たる。はじめは「どうしてそんな難しい言葉を使うのですか?よけいに難しいからやめてほしい」と感じる。


しかし,これはむしろ誤解で,正しくは「専門用語を作らないと,ますます難しくなる」だろう(よく言われていることだと思う)。学問が発達していくと,どんどん概念が複雑化していくから,それを簡潔に表現する用語を作らないと,その分野において何かを表現するときには,説明が長くなったり,言葉が統一されてなかったりして,ますますわかりにくくなる。その専門用語を介することで,研究者同士や,学ぶ人が共通認識を持ちやすくなるんだと思う。


だから,専門用語のネーミングは非常に重要である。その概念の中身をできるだけコンパクトに,忠実に再現できるような象徴とならなければならない。逆に,変なネーミングをつけると,その中身を説明するとき,「言葉のイメージからすると・・・と理解されそうですが,実はそうではなく,xxxなのです」という余計な説明が必要になり,そもそもそんな言葉が必要ないことになる。


法律の勉強を始めて驚いたのは,「学説」の名前がたくさん出てきたこと。
ここから先は好みの問題。初学者からみるとわかりにくいというか,センスがないと感じられるネーミングが多かったのが刑法。「行為共同説」「部分的犯罪共同説」「修正惹起説」などの名前を見ても中身が想像できない。概念と,言葉をそれぞれ別個に覚えて,その結びつきも覚えなきゃいけないから,手間が余計にかかる。
一方,最近勉強を始めたばかりの行政法は,比較的平明な言葉がそのまま学説の名前になっていてわかりやすい。「重大明白説」「外見上一見明白説」「明白性補充要件説」。逆に名前としてはセンスがないと言われてしまいそう。
さらにネーミングが良くないから誤解を招きやすい,という紹介がいつもなされるのが,別件逮捕の適法性判断に使われる「別件基準説」「本件基準説」。