Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

ソクラテス・メソッドにおける講義ノート

法科大学院では一部の科目において,ソクラテス・メソッドによる授業が行われているが,その効果は,授業時間内での理解が深まる,といったものに加えて,授業内容を効率的にノートに残すことによってさらに効果が高まるのではないか,ということを実感した。


確かに,問答形式で行われることで,緊張感も増すし,集中力が出るが,一方でやりとりを聞いているうちになんとなく分かった気になるが,臨場感によって理解した,という錯誤に陥っただけ,という危険もある。


私も当初は,「わかった気持ち」になるばかりで,実際,後から教科書を見ても何も残っておらず,結局教科書を読んで,一から理解を進める,というやり方になりがちだった。それではせっかくのソクラテス・メソッドも効果が薄いので,徹底的にノートをとるように務めた。


要は,授業の実況中継形式で取っていくだけのことだが,スピードが要求されるのでPCで取り,30回の刑事訴訟法で,結局A4で240ページにもなってしまった。しかし,実況中継形式なので,後から読み返しやすいし,そのときの内容が頭に浮かび,忘れていたこともすぐに思い出せるので,非常に効果が高かったと思う。

以下,放火の容疑で出頭を命じられていながら何度も拒否するうちに逮捕された,という事例で,逮捕の適法性に関する検討の場面を転記する。
(当時の理解のままなので,間違った記述もあると思われるが)

  • 199Iの「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」に該当するか(必要性の中身の条件は規則143の3)
  • 規則143の3の「など」の中には取り調べのための必要性というのを認めてもよいのではないか
  • 違う。この「など」は,逮捕の必要性がない場合を列挙しているから,必要性があるものを列挙している訳ではない→逮捕の相当性がない場合を列挙しているとみるべきであろう
  • 198Iで「いつでも退去することができる」とあるから,もともと義務がないのに拒否するだけで逮捕の理由とはならない
  • 199I但書に軽微事件で不出頭を逮捕の条件に書いてあることから,重大事件であれば条件として認めてもよいのではないか
  • そもそも「正当な理由なく」とあるが,198Iで義務がないのだから,出頭拒否自体は正当な行為であるはずであり,両者は矛盾している(本当は出てこなきゃいけないもの,という意識が見える)
  • しかしこの規定は逮捕の要件をより厳格にしたものであるから,逃亡・罪証隠滅の認定の条件をさらに加重してあると解すべきであるから,ここでは適用できない
  • 放火より軽い罪の消火妨害だったとしても,罪が重い(1年以上10年以下の懲役)ことを考えると,3回の出頭拒否からすれば逮捕状が出されるであろう(交通違反でも呼び出しに応じないと逮捕状が出ることがある)
  • 判例1の原審:特段の事情がない限り,繰り返し出頭拒否することは罪証隠滅のおそれがあると推認できる→実務上の通例
  • しかし,繰り返し出頭拒否することは,逃亡の虞がないことを逆に示しているし,罪証隠滅とも思えない
  • 現実的に交通違反指紋押捺拒否で逮捕する理由としては,略式命令で済ませるためであり,そうしないと起訴して裁判所からの召喚状が出て,勾引されることになってしまう(大量処理を効率的に行うため)
  • これは逮捕の本来の目的から逸脱している
  • 呼び出しに応じない者は逮捕される,という考えを広く植えつけたい
  • 裁判を受ける権利を奪うことになるから,やはりその場合は起訴して公開の法廷で判断するべきか